空想するタルトタタン - The Otals
-
「タルトタタン」。
あまり聞き馴染みのないこのお菓子は、バターと砂糖でキャラメリゼしたりんごを型に敷き詰め、その上からタルト生地をかぶせて焼き、最後にひっくり返して仕上げるフランスの伝統菓子だという。もともとは失敗から生まれたお菓子だそうだ。
この曲がおもしろいのは、その逸話をひとつの謎かけとして作品の中に組み込んでいるところにある。
ラーメン、校則、スピーチ原稿、コーヒーカップ、海。そうしたモチーフが曲の進行とともに点描のように配置され、物語の舞台や登場人物の性格、関係性までを形づくり、聴き手の頭の中にひとつのストーリーを作り上げる。
なんでもそつなくこなす優等生に見えて、実はひどく不器用で、気持ちをうまく言葉にできないわたし。マニュアル通りにしか動けずもんもんとする隣で、それに全く気づかず落ち着かない僕。そんな二人のすれ違いを、歌詞は鮮やかに描き出していく。
絵画が一枚の絵から音や空気を想像させる芸術なら、歌はその逆。限られた言葉を置くだけで、風景や人物、その間に流れる時間まで描き出してしまう。
物語を積み重ねてきた楽曲は、Cメロでふいに景色から心の内側へと視点を移す。
センスや流行やショート動画や道徳でも
解決方法のない不感症の僕ら
「センス」「流行」「ショート動画」「道徳」。本来なら人との距離を縮めるための指標になりそうな言葉を並べながら、そのどれをとっても、この難問は解決できないと歌う。
一瞬のひらめきに頼っても、あるいは一生かけて考え抜いたとしても、この距離は簡単には埋まらない。そうした人間関係の難しさには、きっと誰もが少なからず思い悩んできたはず。
だからこそ、ここでタルトタタンの謎かけが効いてくる。
最後にはひっくり返る。すれ違ったまま終わるのではなく、二人はもう一度同じ場所へ戻ってくる。友達ではなくなって二人で――。
歌というのは本当におもしろい。
たった数分間に、登場人物の人生を閉じ込め、それを誰の耳と心にも届く形に変えてしまう。
小説にも、映画にも、漫画にも、物語を成立させるためには舞台設定や人物描写、積み重ねられた演出が必要になる。それでも歌は、歌詞とメロディだけで、それをやってのけてしまう。
ある意味でもっとも贅沢な総合芸術なのかもしれない。
play_arrow










COMMENT