20220315

破墨山水図 - 雪舟

日本画の源流を辿ろうとすると通らざるをえない画家、雪舟。画聖と呼ばれ、室町時代に日本の水墨画を確立させた人物で、6点もの国宝指定された作品を残す、別格の存在である。

その国宝のうちの1点でもある『破墨山水図』。同じ国宝の『天橋立図』などの壮大な作品に比べると、かなり簡素な水墨画であるが、それ故まるで一瞬で描き残したかのような大胆さに魅了されてしまう。まさに一発勝負。速く鋭い筆法で描く、墨点の集合で表現された山水画である。

奥にうっすらとそびえ立つ山々は、おそらくは日本には存在しない空想の産物であろう。というのも当時、雪舟は遣明使として大陸に渡っており、中国の実景を目の当たりにしている。そうして得られた経験をもとに、目に見えた風景に、自身の心象を重ねることを重視した風景画を描くという、独自の手法を確立した。

雪舟以前にも墨で描かれた作品はあるが、それらはあくまで線であり、にじみやぼかし、かすれなど筆の腹や刷毛筆を使ってものの量感や、凹凸を表す手法を生み出したのだ。

この絵が描かれたとされる日本の室町時代は、西洋で言えばまさに盛期ルネサンスの時代。神話や肖像画を最高位として、対象物を忠実にキャンバスに描く具象表現が追求されていた時代に、島国・日本では独自の絵が描かれていた。形ではなく心象を描くのちの印象派のような絵が既に生まれていたことになる。

この簡素なモノクロームの世界から、のちに続く日本画の壮大な歴史の流れには、浪漫を感じずにはいられない。

Text by master

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