20200603

オフィーリア - ジョン・エヴァレット・ミレイ

シェイクスピアの4大悲劇ともよばれる「ハムレット」の登場人物、オフィーリアの最期を描いた作品。はじめて見た時、作品背景も何も知らない状態であったが惹きつけられるものがあった。

誰もがまず視線を移すのは小川に横たわる女性の目。見開いてはいるが、焦点は合わず生死を確認することができない。中野京子氏の「怖い絵」という書籍でも紹介されており、オフィーリアの表情には誰もがショックを受けることだろう。恋人ハムレットに暴言とも取れる言葉を発せられ、父親を殺され、我を失い川に落ちて亡くなったとされるシーン。他にもいくつかこのオフィーリアを描いた作品を目にしたが、ショックの大きさが一番大きかった。

描かれている情景に目を向けると、たくさんの疑問が湧いてくる。溺死であろうが、溺れた様子はない。つまり亡くなったあと浮かび上がってきたところなのか。そうだとするとこんな風に顔や手が浮かび上がるのだろうか。奥側に見える木々や植物は川に大きくのしかかっている。それがまるで死者へのたむけのようでもある。大雨が降った後なのだろうか?ここまでゆっくり流れてきたのであろうか?水に潜る直前なのだろうか?

「美と死の合体」といった紹介を目にすることがあったが、絶望に打ちひしがれすべてを投げ出し、もう何も余分なものを持たないオフィーリアの美しさが「死」と融合することで完全なる美になる瞬間と捉えることができる。何にも縛られない自由の清々しさ。それに勝る強さはなく、恐怖すら覚える。

芸術は長いその歴史において、自然を取り入れ、宗教を取り入れ、権力・権威に利用され、原点回帰を繰り返し果ては精神世界をも描いてきた。「象徴主義」とよばれるものに位置づけられる今作品。形式美からの反発により、ありのままの自然を正確に写し、中世以前へと立ち返ることを目指した。細部にまで書き込まれた植物と水の表現。そして、急速に発達する文明や社会への不安を、文学世界から抜き出しとった。

デジタルによるパラダムシフトが叫ばれる現代においても、同じような不安は皆が抱え、オフィーリアの美と死が合体した、究極に美しい表情に惹きつけられてしまうのではないだろうか。

Text by master

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