20200613

松本米三郎のけはい坂少将実はしのぶ - 東洲斎写楽

江戸時代の謎の浮世絵師、東洲斎写楽の作品。この大胆な構図の絵は見るものを惹き付けてやまない。歌舞伎役者を描いた現代のブロマイド的作品である浮世絵は、スター役者を美しく、そしてかっこよく描く商品。その割に写楽の絵はどこかいびつで、薄気味悪ささえ放つ不思議な魅力に溢れている。

フォーカルポイントの顔から滑らかなにつながるリーディングラインとなる首が異様に太く、そして第2の主役とも言えるキセルを持つ手へと視線を誘導する。生き生きとした指先が逆に不気味さを放つ。大きく描かれた髪と顔。それに比べ異常に小さい手。その比率が不気味さの要因なのか。また初めて見た時、着物から少しだけ出した手のラインが腕に見え、まるで妖怪か何かを描いたものなかと錯覚すら覚えた。とても歌舞伎スターを描いた作品には思えなかったのである。

目鼻立ちやなども、とても美しいとは思えない。その他の写楽作品はさらに滑稽な顔をしている。江戸時代当時、浮世絵師として絶大なる人気を誇った喜多川歌麿の絵と比較してみると、そのいびつさが際立つ。歌麿の絵はみな小顔だ。

未だ写楽の正体は解明しておらず、なぜ短期間に数多くの作品を発表し、表舞台から消え去ったのか、無名だった絵師がなぜいきなり特別な待遇を得て、作品を発表できたのか。すべては謎ままという現実がさらに写楽作品へと興味を掻き立てる。その謎に鋭く迫った島田荘司氏によるミステリー小説「写楽 閉じた国の幻」は一読の価値がある。

江戸後期、戦はなくなり平和になったとは言え、まだまだ庶民の自由は確保されておらず、幕府の意向には逆らえないし、些細なことで命を落とす可能性だってあったはずだ。浮世絵もすべて自由に描けるわけではない。庶民生活は厳しく管理されていた。その時代にあって、写楽の絵は常識を打ち破る自由奔放さで、どこか危険なにおいすら感じさせてくれる。当時の人たちもその危ない魅力にどっぷり引き寄せられたのかもしれない。

Text by master

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