ウルビーノのヴィーナス - ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
イタリア、フィレンツェで開花したルネサンス。そのさらに北方にあるヴェネツィアでは「ヴェネツィア派」と呼ばれる画家達が活躍した。
ヴェネツィア派において、最も有名なのがティツィアーノである。
フィレンツェの画家達が遠近法を確立し、人体表現に重きを置いていたのに対し、彼らは色彩を重視し、多彩な色使いで現実的な美しさを表現した。ティツィアーノは色彩の魔術師とも称される。
『ウルビーノのヴィーナス』は彼の代表作とされ、秋田麻早子氏の「絵をみる技術」にてその詳細が語られているが、配色、視線の誘導、バランス、構図どれをとっても隙のない完璧な作品と言っても過言ではない。
キリスト教以外の神を初めて描いたとされる、ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』から数年後、この絵はいかにも世俗的な姿でヴィーナスが描かれている。盛期ルネサンスを経て、より絵画表現の裾野は広がっていった。
シーツのしわが際立つように表現することで、ベッドに横たわるヴィーナスの滑らかさが明確に浮かび上がる仕掛け。また上半身の後ろはほぼ黒く塗りつぶす事で、その透明感のある肌が浮かび上がる。そうやって主役を主役たらしめている。
手に持たれたバラと足下の犬、ヴィーナスがいる近景と奥の二人の遠景、シーツの下に見える寝具の柄と奥の壁に描かれた柄など、様々な対比の効果も見て取れる。
また、ティツィアーノは「金の亡者」という別名もあり、金銭への執着が人一倍あったとされる。
その執念により、自分の絵画を複製する権利を得ることに成功し、歴史上初めて公式に物質的な遂行ではなく頭の中にある制作のアイデアに基づいて価値が計算された。つまり著作権の概念につながった。
きっと、これだけの大作を残す巨匠は、王侯貴族のためにこき使われることに我慢できなかったのだろう。
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