20200730

接吻 - グスタフ・クリムト

露骨な性の表現で物議をかもすなど、伝統からの分離を謳ったクリムトの代表作。生涯独身を貫きながらも、複数の女性と愛人関係を持ち、何人もの非嫡出子がいたとされる。「接吻」はクリムト自身と、愛人の中でも特別な存在だった一人の女性がモデルとされている。

何よりも際立つのが、その構図。フォーカルポイントとなる女性の顔と、そして首が折れ曲がるほどの角度で口づけをしようとする男性の頭は、キャンバスのギリギリに配置されており、あきらかに窮屈さを覚える。が、この余白のなさこそが様々な感情を沸き立たせ、絵画のあらゆる背景を物語る。描かれたのは1907年から1908年にかけてのオーストリア・ウィーンであり、当時のウィーンは滅亡寸前であった。

単なる男女の愛情表現を感じさせるだけにとどまらず、絶望の淵、最後を覚悟したかのような鬼気迫る圧倒的な迫力と美しさがある。リファレンスには「ウィーンの人々の精神状態を男女の愛に置き換えて視覚的に表現したもの」と評されており、なるほどそれ故、これほどまでにこの絵に引き寄せられたのだと納得できる。

焦点の顔から垂直に伸びる体を通り、水平ラインへと向きを変えた女性の足の先は、真っ逆さまに落ちる崖から飛び出している。この絵の出口となる視線の誘導の先は、まさに絶望だ。

また、いくつかの対比を使った手法により、2人の存在を強烈に印象づける。目を閉じたまま顔をこちらに向ける女性と、表情がまるで見えない男性。また男性の服が直線のあしらいで埋め尽くされているのに対し、女性の服は円形で埋め尽くされている。そして90度に曲がった男の首と、女の足。中央にひと塊のように描かれた愛し合う2人の存在が、それら対比の効果によって際立つよう計算されている。

背景に塗りつぶされた金箔は、日本の琳派の影響とされる。生命が宿ったような男女の身体表現の有機的なラインと、平面性をもった渦巻き紋様、流水紋様などの要素が矛盾することなく一つの絵の中に同居している姿からは、まさに日本画的な思想を感じ取ることができる。

Text by master

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