20250412

名所江戸百景 亀戸梅屋舗 - 歌川広重

ふと足を止めたくなる一枚がある。『名所江戸百景』に収められた、あの「臥竜梅(がりょうばい)」の絵だ。

画面の手前に、まるでこちらへ迫りくるような勢いで描かれた一本の梅。それは、当時の江戸で名の知れた臥竜梅。背景には赤、紫、そして深い緑――そこに浮かぶように咲き誇る純白の梅の花は、香りすら感じさせるほどに生き生きとしている。

これはただの風景ではない。詩のような抒情、そして象徴としての自然。日本の伝統的な美意識が、装飾性という衣をまとって、画面の中で静かに息づいている。

早春――そのまだ冷たい空気の中にふと感じるほのかなあたたかさ。この一枚からは、そんな季節の"兆し"が、色や構図を通じてそっと伝わってくる。

広重はこのシリーズで、かつて『東海道五十三次』などで見せた緻密な写実のスタイルから、少しだけ身を引いた。その代わりに手にしたのは、より自由で象徴的な「詩の視線」だったのかもしれない。

たて長の判形――縦構図を選んだのも象徴的だ。そこには、空間を切り取る緊張感と、画面の中を流れるような動きが生まれている。

描かれたのは梅の花だが、見えてくるのは「新しい広重」そのものなのだ。どこか遠くから吹いてくる、時代の風を感じるような――そんな一枚である。

Text by master

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