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20210712
キャンディ・ハウス - thee michelle gun elephant
このCDを再生したときの衝撃をよく覚えている。
中途半端な田舎で育ち、周囲にあるのは住宅街と田んぼとスーパー。電車で30分かけてやっと図書館にたどり着く。美術館や博物館などの文化資本も程遠く、テレビなどの娯楽が会話の中心となるような世界。ライブハウスなんて欠片も見当たらない。インターネットはまだ「パソコン通信」と呼ばれていた。
そんな中、部屋でひとりラジオを聴いて育ち、気になる曲をダビングしていた子供が、周囲から浮かないはずもなく、放送委員になって校内放送でインディーズバンドの曲をかけたら、同じ委員の子に「なんなんこれ。インディーズ?知らんし」といって停止ボタンを押された悲しい記憶。
18才になって都会へ出て、世界が広がりかけたところに、この曲が殴り込みをかけてきたのだった。
イントロのフレーズを聴いた瞬間に身震いがした。「自分のために作られた音楽」だと思った。自分はずっとそれを探していたのだと初めて気がついた。
正直歌詞なんて耳に入ってこなかった。Vocalのチバユウスケのしゃがれた声が、曲によく合っているなと感じただけ。後日音楽雑誌でピチカート・ファイヴの小西康陽さんが、「歌詞なんて意味がなくていい、thee michelle gun elephantみたいに格好いいとよりよい(意訳)」と言っていた。完全に同意。
では一番好きな曲がこの曲かと言われたらそうでもなくて、「バードメン」で音楽番組に出まくったときはそればかり聴いていたし、若さゆえの焦燥感を感じたときは「I was walkin' & sleepin'」を聴いて逃避していたし、ライブで「ブギー」を聴くときはいつもこの曲だけで一時間くらい演奏してくれないかなと思っていた。
でも、あのとき小さなワンルームで、バイト代を貯めて買ったKENWOODのコンポにCDを入れて、再生ボタンを押したときの衝動は、何物にも代えがたい体験となり、自分のアイディンティティを築く一部となったのです。
COMMENT
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- tanimin
YoutubeもSpotifyもない時代、音楽を試し聞く機会は限られていた。そんな中、CDショップで異彩を放っていたジャケットが、このキャンディハウスが収録された「High Time」である。
当時それを見ただけで、強烈な印象を受けたのを今だに覚えている。もう再生すらする前の衝撃である。
FMOT理論とは「顧客は店舗に並べられた商品を見て、3秒~7秒程度でどの商品を購入するかを決定する」というが、0.1秒で心は決まっていた。