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20260222
快速急行 - 171
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かつてのように、ただ音楽だけに向き合う時間は、ほとんどなくなった。無料で無数の新曲に触れられる一方で、その一曲一曲に集中する力は削がれていく。音楽は多くの場合、何かの"ついで"に流れる存在になった。
それでも、まれにその"ながら"が止まる瞬間がある。手が止まり、耳が奪われる出会い。それが、171の『快速急行』だった。
171は以前から気になる存在ではあった。王道のバンドサウンドを現代的に解釈し、真正面からエネルギーを叩きつけるその姿に、何度か心を奪われた。
そんな矢先に流れてきた曲で、ながら作業の手が完全に止まる。タイトルの「快速急行」が阪急電鉄を指すことは、すぐにわかった。
そもそも171(イナイチ)という名自体が、阪急電車と並走する国道171号線に由来している。沿線に住んだことのある身としては、情景がありありと立ち上がる。
生まれ育った土地で得た経験や人間関係。思考や言葉遣い、身だしなみにまで及ぶ"文化的資本"は、意識せずともその人の内側に根を張り、滲み出る。
171の音楽は、それを隠さない。
たとえば『暮らし』という快速急行の原型のようにも感じられる一曲がある。過度に抽象化も、美化もせず、むしろ生活の匂いごと、記憶のざらつきごと鳴らしている。
茜色に染まるドブ川――淀川。
ネオンに滲む街――十三。
快速急行が向かう僕の町は――おそらく京都方面。
具体的な地名と風景を背負いながら、それを一人称で描く。
象徴的に登場する十三駅は、京都・大阪・神戸に向かう阪急三路線が交差する結節点。人が集まり、交わり、そして別れていく場所。
合流地点には、必ずドラマがある。
学校も、仕事も、スポーツも、ライブも、家族も。人と人が交わるところに、喜怒哀楽は凝縮される。
ボーカルの田村晴信は、自ら歌詞解説を行うという珍しいスタイルをとっているので、それを読めば、この曲に込められた意図や、単語の意味をつかむことができる。
だが、楽曲は説明で完結するわけではない。今度は聴き手の文化資本と結びつき、別の風景を立ち上げる。『快速急行』は、十三を中心に描く物語でありながらも、聴く者それぞれの合流地点を呼び起こす。
あの時の終電間際、最後のあいさつを交わし、別々の路線へと歩き出した光景。
あのとき、ああしていれば。
このとき、こうしていれば。
手遅れだとわかっているのに。わかっているのに。









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