バイリンガルHIP HOPと呼んでも差し支えない英語と日本語を巧みに使いこなす、KID FRESINOのラップパートから、一転カネコアヤノのしっとりとしたフォーク調のパートへとつながる名曲「Cats & Dogs」。

「土砂降り」を意味する慣用句である「It's raining cats and dogs」 からとったタイトルらしい。北欧の神話に、猫には雨を降らせるチカラが、犬には風を起こすチカラがあるという。つまり犬と猫の歌ではない。

「洗濯物が揺れる様を見たいよ」から始まるカネコアヤノのパートがこの曲のハイライト。夏が終わり、秋の訪れを感じる、とある一日、自宅から見える都会の風景と、目の前で揺れる自宅の洗濯物。雨が降っているから、部屋干しなんだろう。この映画の1シーンのような遠近法的描写が、様々な感情を呼び起こさせる。

まだ独り身だった頃、何をするでもなくあっという間に一日が終わってしまい、突如として謎の不安に襲われるようなことがよくあった。ただ起きて、ごはんを食べ、TVを見て、少し出かけ、また寝るだけ。嫌なことがあったわけでもないのに。あの時にこの曲を聞けていたらなあとすら思う。

眠くてやる気がなくて、ダラダラと過ごした日...少し自己嫌悪になりながらも下を向くと、都会の中でふと咲いた花は楽しそうにしている。それがまるで、暗く沈んだ雰囲気が漂う社会の中の、ほんの少しの希望の様だ。

背景で展開される情景の描写と、目の前にある何気ない日常の一コマ。そのコントラストと、聞くものからの距離感が絶妙で胸を打たれる。