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20241211
クッキー - 尾崎豊
『15の夜』『十七歳の地図』『卒業』といった、若者の繊細で鋭利な感覚を代弁する曲。さらに、『I LOVE YOU』『Forget me not』『シェリー』などの極上のバラード――尾崎豊は多くの名曲を後世に残している。
そんな数々の楽曲の中で、『クッキー』を初めて聴いたときの印象は他と異なっていた。どこかリラックスして聴き流せる、癒し系のような曲に感じられたのだ。
繰り返されるサビと、4つの小節をつなぐ構成。何度も聞いていると、曲が進むごとに感情が研ぎ澄まされていくような感覚に包まれる。この曲もまた、BGMとして聴き流せるものではないと気付かされる。
ところで、昔ながらの銭湯を舞台にした仲睦まじい男女の物語で知られる『神田川』は、実は学生運動に明け暮れる男の揺れ動く心情を歌った曲とも言われているのをご存知だろうか。
"若かったあの頃 何も怖くなかった
ただ貴方のやさしさが怖かった"
巨大な権力に立ち向かうことに必死な自分を、相手の何気ない優しさが掻き消してしまう。だからあなたのその優しさが怖い。『神田川』にはそんなテーマが込められている。
一方で、『クッキー』は社会のプレッシャーやストレスに押しつぶされそうな自分を救う、「クッキーを焼く優しさ」を求めた曲だ。崩れる常識、厳しい現実の中で、小さな癒しを願う心が歌われている。
真逆のことを歌っているようで、どちらも共通しているのは、社会の現実の厳しさと些細な幸せが地続きで存在しているという点だ。その間に明確な境界はない。
たとえば世間を賑わす不倫や薬物といった行為に走るのは、その地続きの感覚を断ち切って考えてしまうからなのかもしれない。社会の現実と小さな癒しが繋がっていることを見失うと、人は孤独に耐えきれなくなるのだろう。
ここで、「ネガティブケイパビリティ」という言葉を紹介したい。
本来の意味は、不確実な状況や答えのない問題に直面した際に、すぐに結論を求めず、その状態を受け入れる力を指す。この言葉は、現代にこそ必要な考え方ではないだろうか。
曖昧さを許容できず、答えを急ぐ時代。過激な意見に反応する人々。そんなときに必要なのは、愛しい人が焼くクッキーのような癒しであり、尾崎の残したこの名曲なんだと思う。









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