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20220217
姫事 - チリヌルヲワカ
「これ」「それ」「あれ」などの代名詞は、文脈によって様々な解釈を生む。「私」「あなた」「彼ら」などの人称代名詞を使う場合、会話するもの同士が共通の人物を思い描いているからこそコミニケーションが成立する。
しかし、アーティストが作った楽曲にはこの方程式が当てはまらない。当たり前だが、数学のように論理があり、正解があるわけではない。つまり、「私」も「あなた」も「彼ら」も聴く人によって、対象となる人物は様々なのである。
3人以上の登場人物を指す、1人称から3人称までが登場する『姫事』の歌詞を思う時、自分唯一人について歌っているように思わずにはいられない。
あなたの望みを叶えた10本の指
あなたの思想を解き放ったひとつの口
あなたのときめきの火種を燃やし続けた心臓
あなたの心を洗い流してきたふたつの目
「あなた」も「わたし」も同一人物であり、「彼ら」とは、擬人化された自分自身の身体の一部。あなたは、個体としての自分。わたしは、魂としての自分。そして、切り離すことなどできない身体の一部よりも側に行く事ができるか?との問いは、絶対にあり得ない願いを連想させる。
さらに2番では自然の摂理にもなぞらえて、叶える事のできない願いを強烈に表現している。
「青に染まらぬ太陽と、黒に飲み込まれない月」
絶対に塗りつぶされないただ一つの光以上の存在になろうと、超越できないものをも越えようとする。しかし叶わぬ願いであることを理解しているからこそ、後半の歌詞はすべて疑問形で投げかけられ、儚さをまとう。
最後、それらすべては誰にも明かすことのできない独り言(=秘め事)で終わりを迎える。すべては自己完結する誰にも言えない秘め事。
チリヌルヲワカの楽曲の中でもダントツNo.1で好きなこの曲には、誰にも言えない迷いや苦悩に揺れ動く心情が垣間みれるように思えてならないのだ。
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