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20201009

La Mer - Julio Iglesias

1976年、パリの高名なライブハウス「オランピア」。ステージに立つフリオ・イグレシアスはフランス語で曲の紹介を始める。時折スペイン語が混じるフランス語は、それでも迷わずまっすぐに聴衆へと向かって放たれる。

――とても新しい曲です(C'est tellement nouvelle)、フランスのシャンソンです!

新しい、というのは語弊がある。今にも歌われんとするのは有名なシャンソン歌手、シャルル・トレネが1946年に発表した、当時のフランスでは知らぬ者などいなかったであろう、シャンソンのクラシックともいうべき曲だ。先んじること16年、1960年にはアメリカでジャズ・ミュージシャンのボビー・ダーリンが英語の詩を当てて発表し、世界的にも知名度が高まっていた。

フランス人は自国の言葉に煩い。現代でも余所者の発音に厳しいのだから、45年以上前は尚更風当たりは強かったはずだ。それでも、好意的に解釈してしまいそうになる。フリオはこう言いたかったのではないか――"C'est tellement populaire(とても有名な曲です)"と。

憎めない人間、という言葉が、妙に似合う人間がいる。フリオ・イグレシアスは、そんな人間と同じ匂いがする。不思議なことに、間違っていても許せてしまうのだ。それが他の人間なら、看過できないようなことであっても。

愛されていることに微塵も疑いを持っていない、そんな確信さえ感じるほどの、つたなくも確信に満ちた言葉は、こう続く。

――この曲を演奏しだしてまだ三日です、でもとても有名な演奏になることをお約束します!

シャンソンの大御所が十数年をかけて、エディット・ピアフの曲目と並ぶまで有名にした曲だ。それを自分の歌唱で、聴衆の記憶に残すと言い切る。その傲慢とも見える自信を裏切らないのが、彼の才能の根源ともいえるものではないか。そう思えてならない。


この曲が2000年代に入り再び脚光を浴びたのは、映画『裏切りのサーカス』にこのライブ音源が使われたことが契機だ。映画のワンシーン、冒頭のMCから欠けることなく再生される曲のその光の強さだけ、冴え冴えとした皮肉となって観客の心を強く撃ち抜いただろうことは、想像に難くない。

Text by kato

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コメント

裏切りのサーカスにはまり、この曲が大好きになりました。曲全体をサビのように感じます。
自分の葬式にかけてほしい曲です!

nana

ビブラートを効かし、酔いしれるように歌う本人が、一番曲を楽しんでいるかのようなパフォーマンスがひしひしと伝わってくる。

偉大なクラシックを自分のものにしてしまえる才能は、作品を心から愛するところからくるもんなんだろう。

マスター
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kato

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