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20220415
ならばおさらば - P丸様。
ひと昔前の音楽を聴くと、豊かだった時代、暗かった時代など、当時の社会を懐かしく思い出すことがあるだろう。
アートはその時代を写す鏡であり、芸術家は、まだ具現化される前の問題を目の前に突き出す力を持っている。抽象画、風刺画、写実画...など絵画だけでなく、音楽にもその一面があると思う。
デジタルネイティブなんて呼ばれる世代が、SNSなどのメディアやツールを駆使して、これまでにない新しい表現方法をどんどん生み出している昨今。アーティスト?Youtuber?Vtuber?もはやジャンル不詳のマルチエンターテイナー「P丸様。」は、YoutubeやTikTokが大人気で、その動画再生総数は軽く億を超える。
他の明るいポップな曲調とは一味違い、2021年に発売されたファーストアルバムに収録されている「ならばおさらば」は、巧みな語呂にのせた歌詞が闇を感じさせる失恋ソングである。
ミクロな視点で見れば切ない失恋ソングだが、一歩引いた視点に立ってみると、恋愛を装ったようにした現代に対する一種の風刺なんじゃないかと思えてくる。
「誰とでもフィーチャリングするラッパーじゃあるまいし これって決めた人を裏切るなよ」
他の人に乗り換えられてしまった切ない気持ちを、巧みな皮肉で表現しているが、字面そのままに受け止めることもできる。
かつてライバル同士で決して相入れることがなかった同士が、コラボして一緒に曲を作るなんてことが頻繁に起こるようになった。昔のことを思うと絶対にあり得ない現象に、ファンは歓喜するが、どこか違和感も覚えるのではないだろうか。
SNSやデジタルの世界のど真ん中にいるP丸様。が、人間にとっての普遍的な恋愛というテーマを装い、今の社会に渦巻く矛盾や違和感を炙り出すという構図が見えるように思えてならない。
令和のこの今という空気を、見事に具現化した楽曲の一つに思う。
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