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20210108

車輪の唄 - BUMP OF CHICKEN

あるまだ夜も明けきらない時間帯、僕は自転車の二人乗りで駅へと向かっていた。後ろに乗る君の体温を感じながら。けっこうな上り坂だったので必死に漕いでいると、後ろからなんだか楽しそうに応援する声が聞こえてくる。まだ早朝と言うこともあり、聞こえるのは君の声だけだった。まるで世界に僕たち二人だけしかいないかのような錯覚を覚えた。

必死になって坂を上りきると、言葉を失うほど綺麗な朝焼けが目の前に。その美しさが、これから別々に生きていくことになる2人の人生の幕開けのように感じ、涙がこみ上げてきた。でも後ろに乗る君はずっと楽しそうだった。

駅に着くと、お互い別々の切符を買った。君は一番遠く離れた駅までの切符を、僕は電車に乗ることもないただホームに入場する為だけの切符を。

出発の時間が近い、改札を通らないと..が、荷物をたくさん詰め込んだ買ったばかりの大きな鞄がひっかかってしまった。一瞬、まるで引き止めて欲しそうに見えたのだけれど、皮肉にもそれが最後の決心をする瞬間となった。

もう出発のベルは鳴っている。電車のドアは僕が通ることのないドアだ。君が踏み出した一歩は、単なる一歩じゃなかった。

その時、お別れの挨拶をした。でも僕は君を見る事はできなかった。

見送りが終わると、さっきまで必死に上った坂を今度は下っていく。君を乗せ聞いた事もない遠くの駅に向かって走り出す電車。僕はその電車に追いつくぐらいの勢いで、自転車を漕いだ。錆び付いた車輪が悲鳴を上げていた。でも徐々に徐々に二つの車輪は離れていく。ドアの向こう側の君の姿も見えなくなっていく。僕は最後まで大きく手を振り続けた。

すっかり朝日も昇り、さっきまで君の笑い声しか聞こえなかった町も騒がしくなっている。でも、軽くなった自転車を漕いでいると、まるで世界に一人だけになったみたいに感じられた。

さっきまで背中に感じていた温もりを残し、ギーギーとうるさい車輪の自転車は僕だけのために走り続けた。

Text by master

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master

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