-
play_arrow
20231003
Your Best American Girl - Mitski
-
偉大な経営者が生まれる条件には、戦争か、大病か、投獄が必要だ――そんな話を耳にしたことがある。そこに共通するのは死生観、つまり「死」を間近に感じる体験だという。極限状況に身を置くことで、人は覚悟を決め、大きな原動力を得る。
けれど、それはほんの一握りの人間の話だ。誰もが戦争や投獄を経験するわけではないし、死を強烈に意識する機会があるとも限らない。
それでも、ほとんどの人が自然に経験する"揺さぶられる瞬間"がある。
他者との恋愛。
日系アメリカ人のシンガーソングライター、Mitski。日本人とアメリカ人の両親のもとに生まれた彼女の出自は、その音楽に色濃く反映されている。
純粋な日本人でもなく、純粋なアメリカ人でもないという生い立ちと経験は、彼女の生み出す音楽に色濃く投影されている。
『Your Best American Girl』
あなたにとっての最高のアメリカ人女性
これだけ多様性の時代と言われても、自由恋愛においては、人種のもつ意味は大きいのだと突きつけられるようなタイトル。当事者が置かれる立場は、簡単に想像できるものでもない。
静かで抑制の効いた語り口から始まり、やがてギター、ベース、ドラムが重なっていく。そして轟音の中で感情が爆発する。その展開は、音楽という表現を手に入れることで、自分を縛ってきた呪縛を打ち破ろうとする衝動のようにも聴こえる。
MVの最後、まるで音に守られるように一人スタジオを後にする姿も、その解放を象徴しているかのようだ。
受験、就活、部活、そして恋愛、誰しも多かれ少なかれ、そうありたいと願っても叶わなかったことがきっとあると思う。多くの挫折と失敗によってでできた傷は、幾重ものかさぶたとなり今の自分を形成している。
彼女の説得力ある言葉のひとつひとつ、そしてかき鳴らされる轟音は、そのかさぶたを一枚ずつ剥がしていく。隠していた傷を露わにし、えぐり出し、最後にはそっと癒してくれる。
何かひとつでも、自己を表現する手段を持つということ。
それはこんなにも力強く、人を深く感動させるものなのだと、あらためて気づかされる。









COMMENT