-
play_arrow
20220319
Crying In The Storm - Rita Chao & The Quests
「胎教」という言葉があるように、まだ母親の胎内にいたときに聞いた記憶が残っているとされる説がある。流石にそれは大袈裟であるが、音楽を意識的に聞くようになるよりも数年以上前の音楽の原体験に、母親が家で内職をしている時に流れていたラジオというものがある。
ラジオから流れてくる音楽は自然と耳を通り、知らず知らずの間に体内に蓄積され、そして源流となっているのではと思うことがある。
凌雲(Rita Chao)というシンガポールの歌手が歌う『Crying In The Storm』を聴いたとき、その源流にたどり着いたような気持ちになった。乾いたサウンドとその歌声によって、当時の淡い映像が脳内に再生されていく。当時、この曲を聴いていたわけではないのに。
オリジナルバージョンは、イギリス生まれ横浜育ちのエミー・ジャクソンという日本のアイドル歌手が、1965年のデビュー時に歌ったもので、その後数々のアーティストによってもカバーされた名曲である。
この曲について深堀していくと、日本のロックの格闘の歴史を垣間見ることができた。
当時は、レコード会社専属の人によって作詞・作曲された作品しか発表できない「専属作家制度」のようなものがあったらしい。その呪縛から逃れるために、自社専属作家以外の作品として『Crying In The Storm』はレコーディングされ、そして見事ヒットを記録したのである。
この成功を皮切りに、専属作家制度を打破するようなヒット曲が生まれていき、それらは後に「グループ・サウンズ」と呼ばれる音楽スタイルとして確立されていく。また、翌年の1966年はビートルズが来日した年で、その影響もあってかバンド形態の音楽が流行することになる。
その後の日本のロックについて考える上で、非常に重要な転機になったと言える一曲だった。
そんな歴史的経緯を知ることと同時に、自分の音楽の原点のような曲に巡り合えたような感動を覚えた。
COMMENT