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20200520
空想X - pal@pop
1998年、GLAY、ラルク、ELT..などの実力派アーティストがミリオンセラーを叩き出していた当時にあって、極めて実験的な曲がリリースされていた。それがpal@popというアーティストが作った「空想X」という曲。まさに時代を表す鏡のような作品だった。
抑揚のない単調なリズムで展開される歌い出しから始まり、CDジャケットやアーティスト名まで含め極限まで切り詰めたような匿名性を維持。そこに突如として現れる、これまた匿名性をもった女子高生たちがインタビューに応える声。この曲中に挿入される印象的な会話音が、様々なメッセージ性をもっており、成熟した社会への不満や不安、教育のあり方、無責任への叱咤など、聴くものの頭の中をぐるぐるとかき乱してくる。極めつけは「X」。だいたいのダミー文言、ダミー名にはXを使う。
虚無感、怒り、憂鬱、怠惰などネガティブな感情を植え付けておきながらも、それらを打ち破るかのようにかぶさってくる声でサビが展開され、そこには未来への希望の光のようなものが薄っすらと見えてくる。この2020年現在に改めて聴くと、まるで新型コロナに毒された社会からの希望の光と重なってしまう。
そう、今こそ気持ちいい社会のあり方を考えよう。
COMMENT
街頭の喧騒や生活音が、メロディーと重なりつつも独自性を失わない加減は、異質なものを組み合わせるコラージュのよう。けれどそれらに通底する色調は驚くほど類似していて、それが作品として作り上げられる空気感に昇華される。
ひっそりと忍ばせた同意の「うん」が、女子高生たちのありようを少しも操作していない口調で、驚く。ここまで己を埋没させた肯定の言葉は、久しぶりに聴いた気がする。- kato
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- master
はじめて知ったアーティスト。
90年代のJPOPっぽい音や歌い方で、こういう実験的なことをしているってのは新鮮に聞こえて面白い。それでいて、この匿名性を含んだ手法は、これから10年20年あとの日本の社会の予告でもあるように感じる。
しかし、1998年って、GLAYやラルクの絶頂期であったとともに、椎名林檎や宇多田ヒカル、aikoにくるりやスーパーカー、ナンバーガールといったアーティストが続々デビューした年でもある。
日本の音楽業界がバブリーだったってこともあるんでしょうが、なんかこの年には、ちょっと魔法がかかっている気がする。