「喋っている内容より、声が、その人の人物をよく表す」といつも思っています。
どんな稚拙なことを歌っていても、
歌が人に受け入れられるのは、
このこととおそらく関係していて
歌手はズルい!と活字表現者の端くれの端くれの僕は(このブログのことね)、妬みます。
さて、活字、と言いましたが、
それに対する肉筆の文字、つまり筆跡というのも、
声のように、人物を表し得る。
字を見れば、少なくとも書いたのが男か女か、ほぼ分かりますよね。
(不思議と、歳を重ねると分かりにくくなってゆく)
意味を超える意味を筆跡は示してくれます。
人と会って、その人をもっと知りたいと思うと、
だから僕はその人の字が見たくなります。
中学2年のとき親しかった金田さんの字はすごくきれいで、今でもよく憶えています。
僕の初恋は、生身の金田さんではなく彼女のノートが相手でした。
しかし金田さんを超える強烈な印象を与える字を書く人に、
僕は大学のヨット部で出会うことになった。
彼の名はオマール・ガイ。
オマールの字は、個性的で、つまり下手なのだが、
胸の中で熱い心臓のどくどく鳴ってる感じが伝わる、
素晴らしい、類い稀な字なのだ。
僕らの主催するヨットの大会の表彰状の書き手を、
「なぜオマール」の周囲の疑問符を無視して、
あえてオマールに頼んだのをおぼえてます。
大学4年間は、
僕の、字を通しての彼に対する第一印象の正しさを、
証明する時間だった。
オマールは熱い心と優しい心をハイレベルにあわせ持つ、
正真正銘ナイス・ガイだったのだ。
あの夜やあの夜の出来事や、それから、僕を心底救ってくれた彼の言葉が忘れられません。
さて、前置きが長くなりましたが、
…言いたいことはもう言いましたが
現在、山口県防府市で銀行員をしているオマールを訪ねました。
恰幅がよくなりつまり腹が出て、スーツが似合ってきたオマールが、
雨のなか向こうからやってくる。
笑いが湧いて溢れてこぼれました。
オマール家は非常に忙しいタイミングで僕を迎えることになったのだけど、
それでオマールはともかく、
奥様のゆきちゃんには申し訳ない気がしていたのだけど
会ったら忘れてました。
母になったゆきちゃんは、前より何かたくましくなっていて、素敵でした。
僕に必要以上に気を遣わないでいてくれるあたり、最高でした。
ありがとう、オマール・ゆきちゃん。
この二人に育てられて大人になるけんちゃんが
将来ヨット部に欲しいです。
防府のアパートで、
ひょっとしたら当事者には見えないかもしれない、
虹を見ました。